つるバラの自立型誘引

つるバラの自立型誘引

はじめに

四季咲き性を持つか否かによりバラの植え付け位置は異なります。四季咲きバラは花を咲かせたいと思う空間の真下に植え付けます。四季咲き性を持たないバラは枝の伸び方を睨みながら伸びた枝先の使いこなしを考え、植え付け位置を決定します。

 

「そんな事言ったってスモールガーデンでは無理だよ」。だから一季咲きの品種も四季咲きのバラと同じように植えつけてしまったりします。結果として伸びた枝の対処方法に苦慮することになり、剪定を施し伸びた枝を切り詰め開花を得る方法となります。

 

バラの剪定理論の定理、「剪定とは花の咲く枝先を人為的に作る」になるのでしょう。枝の伸びる品種を剪定してコンパクトに仕立てるのも良いでしょうが、芸が無さすぎます。枝を切っては何も楽しむことができません。庭がつまらなくなります。

 

オールドローズやつるばらのなかで一部に枝の短い品種が有ります。ガリカやハイブリッド パーペチュアルの一部などにこの様な品種があり、つるばらとして扱う上に於いては株元から枝を四方へ大きく湾曲させ枝先を地表に倒す事。これが開花を得ることと翌年のための新たな開花枝を得ることにおいても一挙両得の最も優れた誘引理論です。

 

だけど庭の中にそんな場所はない。そんな広さはないと悲鳴が聞こえそうです。他の草花やバラの場所が無くなっちゃいます。そこで提案です。

 

自立型誘引は株立ち性の品種で枝の長さが短い品種のための誘引方法です。特にガリカの多くの品種や一部のハイブリッド パーペチュアルの品種、モスローズ等に適した誘引方法と考えることが出来ます。今回初めてご紹介する誘引手法です。以前のカタログ上でつるばらの枝の誘引理論の基本部分を掲載しました。この理論を思い起こして頂ければ分かります。

自立型誘引の仕立て方

用意するものは株の身の丈に見合う支柱一本。これに麻ひもと伸びた枝が必要です。剪定をしないこと、伸びた姿のままの枝を誘引します。誘引を行う時期は冬の休眠期。支柱の太さはなるべく目立たぬような細く丈夫なものがよいでしょう。

 

支柱を株近くに垂直に差し込みます。支柱が自立しないと困ります。深めに差し込みます。支柱がシッカリ差し込めたら次は枝の結束作業です。枝の結束に使うのは麻ひもです。この仕立てでは麻ひもなしでは成立しません。一番太い枝または長い枝を支柱に密着するように株元から上に向け結えていきます。枝上部は結かずフリーな状態にします。枝先の長さは横幅の余裕度合いにより調整します。結かずフリーにする枝先の長さは全長の四分の一~三分の一位が目安です。この枝先を利用して花を咲かせます。

自立型誘引の仕立て方

次に結立てる枝は二番目に長い枝。長く伸びた枝を次々と上に向け結立てます。枝の途中から分かれて伸びている枝は結かずフリーの状態。この枝も花を咲かせるための枝です。フリーにさせた枝を曲げて開花を得ることと、咲く姿の演出を加える事。また翌年に花をさかせるためのサイドシュートや枝の発生を促す事にもつながります。

自立型誘引の仕立て方

つるばらの枝を曲げて頂芽優勢を崩し開花と翌年の為のサイドシュートの発生を促し、コンパクトな株姿に仕上げる考え方と同様です。枝の曲げ方と主幹の立て方や結束部分に多少アレンジを加えると自立型誘引に結びつくヒントがありました。ウィーピングスタンダードの枝を誘引する手法のアレンジとも言えます。枝の下垂を縦に段階的に施すと自立型誘引になります。

開花と翌春の為の枝

主な枝の結立ができたら、結かずにフリー状態にしておいた枝の誘引に入ります。植栽されている株の周囲にどの程度の余裕が有るかもポイントです。極力横へ枝を撓められるとより多い開花量が得られます。この為に枝にカーブを付けて枝先を下垂させます。細い枝先を下垂させることで繊細な表情の演出をします。また枝を下垂させることで安定感が生まれバランスのとれた姿を導き出すことができます。この誘因方法で開花と次の枝の出る位置がおおよそ決定されます。

 

誘引をしてカーブを描かせた枝の頂部辺りに翌春に花を咲かせる新しい枝が伸び出す可能性があります。翌春に花を咲かせる枝が誘引を施した枝の何処から出るかが株の大きさや成長のコントロールをする上で大きな要素であります。よりコンパクトな姿を維持し毎年良好な開花状況を得る為には冬の誘引作業が欠かせません。誘引をすることは開花とともに新しい枝が出る場所のコントロールをかけることなのです。

 

誘引は最下部に位置する枝から初めます。細くてもバランスを保つ上で株元近くの枝は非常に有効ですから、細いからといって切り捨てずに活かしきる事が大切です。景色を如何に美しく仕上げるかで庭に価値が生まれるので剪定を施し過ぎると細やかな表情を失う事になります。

探り当てる

順々に上の枝へと誘引を進めていきます。縦方向に同じような誘引を施された枝が並ぶ状況が出来上がって行きます。枝を曲げる要領は枝を大きく湾曲させ枝先を地面に向けます。手で枝の曲がり方を様々試し、心に有る風景やその状況下での最良の枝の線、枝の総量とバランス等を頭の隅に置きながら心象風景を探り当てます。この試みで撓めた枝の形が気に入れば麻ひもを使い枝の形を固定する作業に入ります。

 

麻ひもの結く起点は支柱とそれに結立てた枝を使います。この枝を撓め誘引する方法がウィーピングスタンダード仕立ての誘引方法のなかで、枝が下垂し難い品種の誘引方法に酷似します。ウィーピングスタンダード仕立てに精通している方なら「これを縦にすればいいんだ」と気付くはずです。枝を下に引っ張る形になるので、支柱側の麻ひも起点は枝よりは下になり、結く枝を引き下げる様な具合になります。

 

この時の注意点は最初手で曲げた枝の描く曲線を麻ひもで同じ形を作ること。しかも枝先はあくまで自由に風に揺らぐ風情を枝に持たせる。この位の気持ちを込め麻ひもの結く位置を探ります。必然的に枝の形上から麻ひもの結く位置は枝を撓めた弧の頂点より少し枝先寄の部分になります。

 

枝の長さや太さ強さにより多少変化します。枝の柔らかな品種は開花時の花の重さで枝が更に下がる事も計算して開花位置の調整を行います。こうする事で枝の頂芽優勢全般が崩され、弧の頂部付近から下垂した枝の部分に開花が起きやすくなります。

 

誘引が一通り済んだら枝先の剪定作業に入ります。花の大きさや房咲き性の有無。またステムの長さや花首の強さ等も考慮し剪定を加えます。枝を下垂させてあるので開花についての不安は有りませんが、花の大きさや花弁数によっては養分の分散を防ぎ効果的な開花を得るために剪定を施す場合があります。

 

無剪定の場合は枝の柔らかな品種ほど開花が得られやすくはなります。品種間で差異が有り何とも言い辛い部分がありますが、剪定はあくまで花の咲く枝先を人為的に作る作業。咲かせたい場所に枝先を作ればいいだけです。剪定の基準は花の大きさと枝の太さを判断材料にします。枝が太く花径の有る品種は剪定を施した方が有利です。「切らなければ咲かない」で表現の自由に制約を受けるのはまっぴらですよね。

 

ハイブリッド パーペチュアルを中途半端なつるばらと見ている方もいらっしゃいますよね。大~中輪種であるため大概は剪定を施し開花を得る事になります。ヒューディクソン程枝が伸びればつるばらとして扱えますが、ポールネイロンでは枝の成長が 2.5m 前後、ツルとして扱うには短くブッシュローズとしては冗長です。

 

自立型誘引に適したハイブリッド パーペチュアルは背の高くならないタイプ。ポールネイロンから下がってスブニールドクタージャメインなど、カタログデーターで 2.5m 以内の樹高であれば適合します。樹高 2m 以内の表記品種は特に適しています。剪定で咲かせるよりさらに花つきが良く景色も良くなります。今まで使いきれなかった品種もこの仕立てなら実に効果的で、この仕立て方でハイブリッド パーペチュアルを使いこなして下さい。

 

ガリカローズの場合は枝が細くしなやかな特徴を持っています。株立ちになっても枝先は常にほふくか下垂するような品種も多く、中でもカーディナルドリシリュウー等のように枝の使いこなしに整合性を見出し切れない品種に適性が有ります。今まで剪定でしか収まりの付かなかった品種。枝の長さで判断すれば 2.5m 以内の品種で枝数の多すぎない品種の景色を整えるに絶好です。

 

モスローズについては全般に適性があります。特に枝数が少なく花付きに不安を覚える様な品種はこの仕立てがお勧めではあります。ウイリアムロブやシャポードナポレオンなど試してみたい品種です。

 

オールドローズ全般で、枝は細いが枝数が多くなる品種があります。この様な場合支柱一本では混み合いすぎて蒸れて無理と思われる場合が出てきます。この様な場合市販の適当な背丈のオベリスクを御柱として使うと効果的かも知れません。紫玉やアンリマルタン等がこのケースに入ります。鉢栽培の場合はオールドローズ全般に適しています。

 

鉢栽培の場合生育にある一定の制約が有るため、野放図な枝の伸びは有りません。このため全般的な面では咲かせ方に応用すると効果的であると思います。今回は鉢栽培のバラに施した誘引方法の画像を掲載し説明を加えました。

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